ニューヨーク生活20年を迎えた栄さんのお話

ニューヨーク生活20年を迎えた栄さんのお話

前回は2021年2月にこのコーナーでお話いただいた栄さん。ニューヨークで生活し始めたころからのお話でしたが、今年はアメリカに移住してちょうど20年。そう、全世界の人々の記憶にも未だに鮮明に刻まれている、あの「911」の混乱下に移住生活を開始した栄さんに、この20年を振り返っていただき、アメリカで生きる人々の覚悟や、ニューヨークという世界の縮図的な街で暮らす人々のアイデンティティーについてもお話をお聞きしてみました。

この夏のニューヨークは豪雨で水没被害も

世界的に地球温暖化や異常気象に関するニュースが毎日のように流れ、その影響は大規模集中豪雨や広域森林火災、氷河崩壊など地球規模のスケールです。広大なアメリカ大陸ではこれらの災害も多く、被害の及ぶ範囲も広いのが特徴で、この夏も東海岸には猛烈なハリケーンが来襲し、ニューヨークでも夏の終りにはハリケーン「アイダ」(2021年9月発生)が直撃。市内が水没し29名の死者が出るほどの被害をもたらしました。

東海岸を横断するようなハリケーン「アイダ」の進路。Newsweekよりイメージ引用

当時、ニュースでニューヨークの現状を知った私は、すぐに栄さんの安否を確認しました。ちょうどこのとき、夏休み最後の家族旅行でニューヨークからニュージャージーに南下してハイウエイを移動中だったそうですが、走行中の車も揺れるほどの勢いでハリケーンとすれ違うような状況となり、ただならぬ緊張感が頭をよぎったそうです。幸いにも災難には至らなかったそうです。
しかしニューヨークの友人の中には車が水没した方もおられたという事もあり、身近にハリケーンの被害を感じたそうです。
地下鉄にまで浸水被害が及んだのを目の当たりにして、さすがに恐怖を感じたという生々しい体験もお聞きし、私も改めて地球規模での大きな問題にさらされていることを再認識しました。

ファイナンスやインシュアランスに関して詳しい栄さんからは、現実的な問題として「このように災害による被害地域が認識されていくと、被害の多い地域の場合、急激にその地域の保険料金も高騰します。当然ですが高リスクを回避する動きもありますから、その土地を離れる人も多くなる。」という、切実に生活と関わる問題としてアメリカ社会の現状も伺うことができました。

秋深まる10月のニューヨーク

夏の終りにはブロードウエイでのショーも再開されて、賑わいを取り戻してきたニューヨークもこれから冬に向けて季節が移り変わろうとしています。大都会というイメージが先行しがちですが、栄さん曰く「身近に自然の多いところもニューヨークが住みやすく気に入ってる一つの理由」ということです。

住まいから徒歩でも行けるセントラルパーク。自然をそのまま残す広大な敷地にはこんな小川も流れています。

住んでいるアパートから10分くらいでセントラルパークがあり、都市の中に広大な自然地帯が残されているので、公園を散策すれば空気も違う。野生の動物や多種多様な植物も目にすることができます。日本の都市ではこれほどの自然が残された公園は見たことがないです。
10月になると気温もぐっと下がってきて20度を下回ることも多くなりました。これから冬に向けてハロウイン、クリスマスといったアメリカでは社会的なイベントを経て、大好きなスキーが楽しめる冬へと向かいます。

多様なコミュニティを抱える街

僕の住んでいる地域はニューヨークの中でも比較的に新しいコミュニティで形成されていますが、ちょっと地域が変わると街の景色や生活様式まで変化が見えるのがニューヨークの特徴です。世界中からの移民が出身国の文化や生活様式、食生活まで持ち込んでいるからですね。
例えばインド人が多く暮らすコミュニティに入ると、彼らの服装や話し言葉、辺りから漂ってくるエスニックな香りなど、実際にインドに行ったことがなくてもその国の雰囲気が伝わってくる。ロシアのコミュニティではお店にチョコがすごく多くて、ピロシキやサーモンの塩漬けが並んでいるという具合です。

僕は学生時代に留学地としてニューヨークを選んで、長年暮らして来ましたがあのときいくつかあった留学先の候補からニューヨークを選んだのは大正解だった。多種多様な人種や文化、考え方、生活をルーツに持つ世界中の人達が作り上げた、これほど巨大な街はニューヨークにしかない特徴です。

よくこれから留学したいという学生に相談されることもありますが、語学のためだけなら他のところを選んでもいいと思うが、自分への投資だと考えるならニューヨークを薦めます。

栄さんもよく利用しているのが電動のシェアサイクル。地下鉄にタクシー、そして自転車で市内の移動は快適。

ニューヨークの都市としての大きなメリットは、近場に知り合いが密集しているような生活圏があり、東京で言うと山手線の内側にみんながいる感じです。地下鉄も24時間運行しているし、タクシーも安く、街中のどこへでもすぐ移動できる。そんな立地と利便性の高いエリアには世界中からもたくさんの人達が集まってくる。ここでたくさんの友人を作ることは世界中の人達と友達になれることを意味しています。
多種多様な文化や背景をもつ彼らとコミュニケーションして人脈を形成するスキルも身につくのです。

コロナ後を見据えたニューヨークの今

アメリカは昨年の大統領選でバイデン氏が大統領になって以降、トランプ政権時代の保守的な政策が大きく転換されて、世界的にもCOVID-19パンデミクスに対応する動きが早く、国内に向けた救済措置関連の予算規模も拡大しました。
ニューヨークは全米中ではワクチン接種率も高く、職員をはじめ医療機関や、教育機関関係者へのワクチン接種義務化や劇場やクルーズ船、レストランに至るまで、入場者のワクチンパスポート提示が義務付けられるなど徹底した対策が取られています。

近所のレストランでも入店にはワクチンパスポートが必須。(青い張り紙がニューヨークの規制についての説明)

もちろん、このような規制や義務化には反対の声も上がっているし、すべての人がワクチン接種に肯定的なわけでもないのです。ただCOVID-19のパンデミックを例にしても、目の前で起こっている現実は変えようがないし、絶対それは0にはならないのだから、その状況下でいかにして以前のような生活を取り戻し、さらによくしていくべきなのかを考えるのが大事なのだと皆が認識している。

レストランでは屋外での飲食スペースを併設するのもスタンダードな取り組みになっている。

アメリカ人のDNAにははっきりとした自由主義があります。移民の歴史を見てもわかる通り、生まれた国に窮屈さや不自由さを感じてここに来たという人がアメリカ人の基本体質となっている感じが強く感じられ、それは今も移民してくる多くの人々に共通している意識だと思います。だからこそアメリカでは様々な国民の声があがるのです。
私が住んでいるニューヨークはそんなアメリカの雛形にも思えます。本当に多種多様でいろんな人がいますが、国民の声が制度を変えるという民主主義の基本思想が根付いているのです。